時代の変化によるお金の考え方「昔の常識、今の非常識」

肉体的・精神的・経済的に人生を不安なく生き抜くことはそう簡単ではない時代になった。筆者(伊藤 誠)はFP業を20年近く運営し、数千人のご相談・お話を聞いて自分はそう感じています。その最大の理由は良くも悪くも長寿だと考えます。

寿命と余命

みなさんは「平均余命」という言葉をご存知ですか。「平均寿命」というのは良くお聞きになると思いますが、平均寿命の定義は0歳児が何歳まで生きるかという年齢です。これに対し「平均余命」は今〇〇歳の人が後何年生きるかという年齢です。厚生労働省のホームページをご覧ください。
https://www.mhlw.go.jp/

70歳まで生き抜いた女性は、今や二人に一人が90歳を超えるのです。この現実を50年前に誰が予想できたでしょうか。下記、厚労省が発表したデータを見れば予想がつかなくても仕方がないことが良くわかります。

◆日本人の寿命(時代・年代別)

  • 1950年 男 58.00歳 女61.50歳(初めて60歳を超える)
  • 1952年 男 61.90歳 女65.50歳(初めて65歳を超える)
  • 1960年 男 65.32歳 女70.19歳(初めて70歳を超える)
  • 1971年 男 70.17歳 女75.58歳(初めて75歳を超える)
  • 1984年 男 74.54歳 女80.18歳(初めて80歳を超える)
  • 2004年 男 78.64歳 女85.59歳(初めて85歳を超える)

日本の1950年、60歳前後で亡くなったおばあちゃん達が、たった50~60年の間に30歳も長生きになったのです。私は1962年生まれですが、子供の頃60歳を超えた女性を見ると、十分おばあちゃんだった記憶が鮮明にあります。

もう一つ下記をご覧ください。

◆日本人の寿命(時代・年代別)

  • 弥生時代 – [紀元前4世紀頃 ~ 250年頃] 男30.00歳 女29.20歳
  • 室町時代 頭骸骨検査で 男33.10歳 女32.80歳
  • 18世紀 男女とも30代半ば
  • 1947年(昭和22年) 男 50.06歳 女43.20歳
  • 1950年(昭和25年) 男58.00歳 女61.50歳(初めて60歳を超える)

過去30歳の寿命が60歳を超えるまでに2000年以上費やしているのです。それに対し60歳の寿命から90歳を超えるまでたった50~60年しか費やしていません。この短期間で人間が肉体的・精神的・経済的に対応できる人が少ないのはある意味当然だと思います。日本国政府でさえ最近まで人口が増えることを前提に、家族は夫婦と子供2人を前提に試算・政策を立てていたではないですか。「昔の常識、今の非常識」があるのです。

しかし、仕方がない・出来ないでは済まされません。人間はこれに対応しなければなりません。どうしたら人生を幸福に生き抜くかを考えるべきだと私は考えます。

金利と郵便局の学資保険

お子さんが生まれると郵便局の学資保険に入られる方が数多くいらっしゃいます。学資保険に加入する目的はお子さんが生まれ、そのお子さんが高校・大学と進学される時の教育費を毎年コツコツと蓄え・準備することが目的です。この毎年コツコツ将来の教育費を準備するという目的そのものはすばらしいですね。今から30年前の親はこの学資保険に加入して、とても良い思いをしています。0才の子どもが生まれ、18才になると自分が毎年コツコツ預けた金額がなんと2倍になって戻ってきたからです。100万円を預けたのに200万円になって戻ってきたということです。この親の経験値と学資保険という名前の良さと郵便局が販売しいてるということで今でも人気があるのでしょう。

ここで大きな勘違いが起こっています。それは郵便局の学資保険が100万円を200万円にしたのではなく、金利が100万円を200万円にさせたということです。言い換えると郵便局の学資保険でなくとも当時の定期預金に18年預けても100万円が200万円になったということです。

銀行の定期預金金利(1年)

金利
1988年 3.39%
1989年 4.10%
1990年 5.57%
1991年 5.78%
1992年 4.13%
1993年 2.42%
1994年 1.16%
2000年 0.25%
2019年 0.02%

 
長期の金利の威力とはすごいのです。

0歳の赤ちゃんが18歳になるまで、100万円を金利5%で18年間預けると、税金を引かれても240万円になります。ところが今の0.02%で預けると18年後100万3600円です。

億万長者という言葉がありました。これは1億円をもっていれば、お金に困らないという一昔前の言葉です。1億円もっていれば、1年で利息が500万円もらえたのですから。

住居 賃貸と持ち家

賃貸vs持ち家が話題になったとき、すぐどちらが良いかという事だけが一人歩きします。賃貸最大のメリットはいつでも気軽に引っ越しができることですが、ここでは住居に対する生涯支払額に的を絞って考えてみましょう。仮に家賃が8万円、2年に1回の更新料支払いを加味し年間家賃を100万円とします。20歳から90歳まで70年間この家賃を支払うと7000万円 50年間としても5000万円です。

一方家を購入する場合、3500万円の家を35年ローンで支払うと現在の低金利下では約4000万円、生涯の固定資産税とリフォーム予算・住宅ローン減税を加味すると5000万円ぐらいになると思います。(30年前の金利下では3500万円の家購入資金購入は8000万円の支払いになり、当時は家を購入すると購入金額の2倍以上の支払いになるため、住宅の購入は頭金を貯めてから購入することが常識で、頭金を20%出せる人しか住宅ローンを組めませんでした)

50年間の住居費用が賃貸も持ち家も5000万円だとするならば、どちらを選択されますか。もちろん個々に事情が異なるので、意見は分かれるでしょうが、70歳の時賃料8万円を死ぬまで払い続ける経済的余力があるか心配です。少ない年金の中から、家賃を死ぬまで支払い続けることは容易ではありません。特に独り身になった時は年金が2人分から1人分になってしまいます。

切り口を変えて、

  • Aさん60歳で月10万円の家賃 貯金3000万円
  • Bさん60歳で持ち家 ローン完済 貯金0

一見Aさんはお金持ちのように見えますが、25年間(85歳までで)で家賃を3000万円+更新料120万円支払わなければなりません。

ここで言いたかったことは、長寿に対する家賃負担は重いということと、超低金利のため住宅購入に対する金利の支払いが極めて低いことにより、持ち家に対する住居費用が昔に比べ数千万円単位で低くなっているということです。これもまた「昔の常識、今の非常識」かなと思います。

老後資金と2000万円問題

2000万円の話題も独り歩きしていますが、正しく理解する必要があるとFPは考えます。「金融庁の試算は、65才の夫と60才の妻の“平均的な生活費”が一般的な年金支給額(夫婦で21万円)を月5万円上回り、それが老後の30年間ずっと続くと2000万円(月5万円×12ケ月×30年)くらい足りなくなるよ、というお話です。

ここで注目しなければいけない点は3点あります。

A 65才の夫と60才の妻という前提で、単身ではないし、年上女房でもないし、年の差婚でもない
B 老後(65歳以上の夫婦世帯)の平均的な生活費とは
C一般的な年金受給額(夫婦で21万円)を前提

項目 金額
食費 70,058円
交通・通信 28,524円
交際費 25,315円
教養娯楽 24,541円
光熱費・水道 21,635円
保健医療 14,995円
住居費 14,853円
家具・家事用品 10,273円
被服・履物 7,465円
仕送り金 1,748円
教育 458円
合計 247,701円

 
自分の受け取れる年金受給額を知らない人が50代で6割を占め、老後の生活資金を確保していない人は7割に上るー。日本銀行の調査で、公的年金の理解や老後生活費の準備が進んでいない実態が浮き彫りとなった。

ここで言いたかったことは、上記すべて個々に状況が違うということです。

◆65歳以降のポイント

  • ご自身(夫婦又は単身)は何歳で何十年間分の将来を考えなければならないか
  • ご自身(夫婦又は単身)の65歳以降は月いくら使うか (家賃 親介護 住宅ローンはないか)
  • ご自身(夫婦又は単身)の65歳以降受給できる年金額はいくらか(夫婦で21万円はあくまでも平均で、少なくとも夫婦どちらかが厚生年金40年加入していないと難しい)

ポイントは 2000万円という数字ではなく、“毎月5万円の赤字”が30年という話。
ご自身(夫婦又は単身) は65歳以降 毎月いくら不足(又は余る)×何十年ということです。

これも「昔の常識、今の非常識」で昔はこんなことを考えなくとも、終身雇用で退職金を数千万円もらい、年金は60歳から受給、余命もそう長くなかったのです。今は長寿のライフプラン(生活設計)を考えなければならない時代なのです。

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